今回は、刑法の重要論点である【実行の着手】の処理手順を公開したいと思います。
実行の着手の問題は、①不能犯と②純粋な実行の着手の問題に分けることができます。
まず、不能犯とならないか
修正された客観的危険説を論証、当てはめ
<論証> 未遂犯の処罰根拠は、法益侵害の具体的危険性にある。そして、この危険性を客観的・科学的に判断すると、不能犯が広がりすぎることから、危険性判断の際の事実の抽象化は避けられない そこで、事実がいかなるものであったら、結果の発生があり得たかを科学的に解明し、この仮定的な事実が存在する可能性はどの程度あるかを事後的に判断し、法益侵害の具体的危険性を惹起したと言えるのか判断する。 |
∵この説からは、判例とほぼ同じ結論を導くことができる。山口説だから安心
時間がないときは、方法の不能ならば客観的危険説、客体の不能ならば具体的危険説を論証すれば、基本的に妥当な結論を出せます。
次に、不能犯とならないとして、いつの時点で実行の着手が認められるか。
予備行為の実行の着手の有無が問われた場合には、クロロホルム事件の規範(密接性+危険性)で検討し、それ以外の場合には客観的危険説により検討をしましょう。
危険性の認定は具体的に行う
<ダンプカー強姦事件> ・ 犯行時間帯が夜間であり、助けを求めにくい ・ ダンプカーという大型車両の運転席に引きずり込まれれば、脱出しにくい ・ 犯人は二入であり、一人の場合より危険性が高く、また脱出も困難 →かかる事情より、引きずり込みの段階で強姦罪の実行の着手が認められる。 |
ちなみに、ダンプカーへの引きずり込みは、予備行為として実行の着手が認められたわけではありません。引きずり込み行為自体が強姦罪の構成要件である「暴行・脅迫」に当たることから、強姦罪としてのそれに当たるのかを危険性の観点から検討していると思われます。
コメント
不能犯も実行の着手時期論も実行の着手の有無に関する問題である。すなわち、不能犯は行為の質的危険性が結果を惹起するに足りる者であるかの問題であり、実行の着手時期の問題は、行為の量的危険性がいつの段階で具体的危険性のレベルに達するかの問題です。
例えば、方法の不能の事案において、具体的危険説より検討するのは、印象が悪いと思います。判例はこのような見解を取っていないことは明らかですから。出題される問題に応じて書き分けれるレベルに準備しておきたいところです。
ポイントは、当該行為の量的危険性と質的危険性の両面から、実行の着手の有無を判断するという点です。
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