先日からビジネスマンや司法試験受験生に役立つ知識として、企業経営理論の基礎知識を整理しております。
本日のテーマは、「人は何(what)によって動機付けられるのか」です。
人は何によってどうやって動機付けられるのかを研究したものとして、モチベーション理論があります。モチベーション理論は、経営者のために、従業員のモチベーションを維持向上するための方法論を研究しているものですが、経営者のみならず司法試験受験生にも応用可能な方法論です。
なぜ、「司法試験の勉強のやる気が出ないのか」。モチベーション理論を知れば解決できるかもしれません。
司法試験受験生でなくても、「何だかやる気が出ない」「三日坊主になる」などモチベーションの維持・向上に課題を抱えている方々にとって、少しでもモチベーションの維持向上に役立つ内容であればと思います。
それでは、解説に移りたいと思います。
モチベーション理論の内容
モチベーション理論には、大きく二つあります。人は何によって(What)動機付けられるのかに着目した「内容理論」と、人は、どのようにして(How)動機付けられらるのかに着目した「過程理論」です。他にも、過程理論によっては説明が付かないような内発的動機に着目した「内発的動機付け理論」もありますが、当ブログでは、「内容理論」と「過程理論」を扱いたいと思います。そして、本日のテーマは、「人は何によって動機付けられるのか」、つまり「内容理論」です。
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内容理論とは
内容理論を研究した有名な研究家が3人います。マズロー、アルダファー、アージリスの三人です。アルダファーとアージリスの研究は、マズローの研究がベースとなっています。そして、マズローは「欲求段階説」を提唱した人として有名ですね。義務教育課程で学習された方も多いと思います。
しかし、この有名なマズローの「欲求段階説」でさえ、正しく理解している方は少ないのではないでしょうか。私も、中小企業診断士の勉強をするまでは、「なんとなくは知っている」けど「人に話せるレベルではない」と言う感じでした。そこで、まず「マズローの欲求段階説」について解説したいと思います。アルダファーとアージリスの研究は、マズローの理論をベースにしたもののため、マズローの理論を正しく理解することは非常に大切です。
マズローの欲求段階説
マズローのは、人間の持つ欲求を低次から高次まで5つの段階で捉えました。図式すると以上のようになります。この図は、たまに目にすることがある人間の欲求を5段階に分類したものです。具体的には、①「生理的欲求」②「安全欲求」③「所属と愛の欲求」④「尊重の欲求」⑤「自己実現欲求」となっています。
①生理的欲求…食べ物・水など人間の生存に関わる本能的欲求
②安全欲求…安全ないし安定した状態を求め、危険を回避したいと言う欲求
③所属の愛の欲求…集団や社会に所属、適合し、そこで他社との友情や愛情を充足したいという欲求
④尊重の欲求…他者から尊敬されたい、あるいは、他者より自分が優れていることを認識したいという欲求
⑤自己実現の欲求…自己の向上、あるいは自己の潜在的能力を実現したいという欲求
この5つの欲求の内容と、欲求の階層を知っていた方でも、以下の点について正しく理解されていましたか?
「低次の欲求が満たされることで、次の段階の欲求が生じる」
「複数の欲求が、同時に存在することはない」
「5つの欲求を二つに分けるとすると、自己実現欲求とそれ以外である」
それぞれ説明していきます。
「低次の欲求が満たされることで、次の段階の欲求が生じる」
マズローは、低次の欲求が満たされることで、上の段階の欲求が生じると考えています。例えば、安全欲求が満たされていないのに、それより高次の欲求である所属と愛の欲求が生じることはないと考えています。また、高次の欲求が満たされないからと言って、低次の欲求を満たそうとはしないとも言っています。
つまり、階段を登ることはあっても、降ることはないということです。欲求の移行は、不可逆的ということです。
「複数の欲求が、同時に存在することはない」
上記の原則より、複数の欲求が同時に存在することがないことが分かります。低次の欲求が満たされることで、初めて次の段階の欲求が生まれるのであり、次の段階の欲求に移行したら、下のレベルの欲求に戻ることはないからです。
司法試験の受験生としては「所属・愛の欲求が満たされていない」「尊重の欲求が満たされていない」等とご自身のことを分析されると良いかもしれません。
「5つの欲求を二つに分けると、自己実現欲求とそれ以外である」
自己実現欲求は、最も高次な欲求ですが、質的に、他の4つの欲求とは異なります。自己実現欲求以外の①から④の欲求は、欠乏欲求と呼ばれています。つまり、「ないから欲しくなる欲求」ということです。他方、自己実現欲求は、「欠乏から生まれる欲求」ではありません。
ここからは個人的な理解ですが、欠乏欲求は、「他人から与えられることで充足することが出来る」と言えます。例えば、安全欲求であれば、他人から安全で安定した状態を付与されれば充足することが出来ます。尊重の欲求も、他人に尊重してもらえば、充足することが出来ます。
自分がやらなくても、他人によって充足される欲求と言えると思います。他方、自己実現欲求は、自己の向上や、自己の潜在的能力を発揮したいという欲求であり、これは、他人によって充足されない欲求です。この欲求を充足するには、自分でどうにかするしかありません。
このように、自己実現欲求と他の欲求は質的に異なる点は、非常に大切なポイントなので、努めて覚えるようにしましょう。
アルダファーのERG原則
アルダファーは、マズローが提唱した5段階説を修正しました。まず、アルダファーは、マズローの5つの欲求をERGの3つに整理しました。Eは、「Existence」の頭文字で、基本的な存在の欲求を指します。Rは、「Relatedness」の頭文字で、人間関係に関わる関係の欲求のことです。最後に、Gとは、「Growth」の頭文字で、人間らしく生きたい成長の欲求を指します。
さらに、アルダファーは、人間の欲求について、マズローと異なり、以下のように主張しました。
・3つの欲求が同時に存在したり、並行したりすることがあり得る。
・上位の欲求から、下位の欲求に移行することもある(欲求の移行は、可逆的である)
どうでしょうか。マズローの見解とは真逆の理解と言えますが、個人的にはアルダファーの見解の方が経験則に合致するのではないでしょうか。例えば、所属と愛の欲求と同時に、尊重の欲求が存在することは、感覚的にあり得ることのように思います。また、同時に存在することがある以上、欲求の可逆的移行を認めることが自然なように思います。
このように、アルダファーの理論は、マズローの理論を修正、あるいは、発展させたものと理解していると覚えやすいと思います。
アージリスの未成熟=成熟理論
アージリスは、マズローの自己実現欲求に着目しました。具体的には、人間の人格は、未成熟から成熟に向かおうとする欲求によって、変化すると述べています。図式化すると以下のようになります。
司法試験の受験生としては「受動的」→能動的行動」、「単純な行動→多様な行動」、「自覚の欠如」→「自覚と自己統制」のように、成熟に近づけようとすれば、日々の勉強はより生産性の高いものとなるでしょう。
他方、アージリスは、組織の管理原則にも警鐘を鳴らしました。すなわち、組織の下階層の人々は、未成熟な特質を要求されることになり、結果的に、下位の構成員が、成熟しようとする意欲が削がれ、モチベーションを維持することが困難ではないかと、指摘しています。その上で、このような管理原則のもと下位の構成員のモチベーションを維持するためには、①職務拡大と、②感受性訓練、が必要であると述べました。
①職務課題とは、職務に対する単調感を緩和するために、職務のバリエーションを増やして、仕事の範囲を拡大することを言います。職務の水平的拡大とも言います。
②感受性訓練とは、構成員を集団から切り離し孤独な場面を作り出すことで、集団への参加意欲を高めさせ、それにより、集団形成のメカニズムや集団の機能を理解させる訓練のことです。
②の訓練については、想像することが難しいですが、①の職務拡大が、モチベーションの向上・維持に繋がることは経験上も納得できるところです。
最後に
本日は、「人は何によって動機付けされるのか」について解説してきました。
個人的な感覚ですが、日本人の多くは、マズローの欲求段階説における、「尊重の欲求」のレベルに位置する人が多いのかなと思います。
会社や団体に所属することで人間関係はある程度充足され満足しているが、他人からもっと尊重されたい、尊敬されたいという欲求は充足されていない。「欠乏からの欲求」から脱去し、「自己実現欲求」のレベルに移行したいものです。
「司法試験の勉強に疲れた」「司法試験の勉強のやる気がでない」という受験生の皆様は、一度、本日紹介したモデルを基に、自己分析をしてみると良いかもしれません。
本日も最後までお読み頂きありがとうございました。
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