今回は、過失犯の論述例を共有したいと思います。私が、受験生時代に作成したまとめノートをもとに作成しています。
本記事を読めば、最低限、過失犯の問題に関して守りの答案を書くことが出来るようになります。
論述例
第一 Xの罪責
Xが患者の同一性を確認することなく外科手術を執行した死亡させた行為につきが、業務上過失致死罪(211Ⅰ)が成立しないか。(←行為の特定は、結果を具体手に記載するべきである。)
1 まず、「業務」とは、①社会生活上の地位に基づき、②反復継続して行う事務で、③他人の生命身体に危害を加える恐れがあるものを言う。
本件では… (*①〜③を意識して当てはめる。
2 では、「必要な注意を怠」ったと言えるか。
ここで、「必要な注意を怠」った(過失)とは、結果予見可能性、結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反をいうと解する。
<論証例>
刑法の法益保護機能に鑑みて、「必要な注意を怠」った(過失)とは、結果回避義務違反をいうと解する。そして、これは予見可能性と結果回避可能性を前提とする。なぜなら、予見可能性がなければ、結果を回避することはできないし、結果回避可能性がないのなら、結果回避義務を基礎付けることはできないからである。 |
*時間がなければ定義だけでも良いと思います。この論証の場合、理由がある分加点されると考えています。過失の構造論の言及は不要だと思います。
3 まず、結果予見可能性は認められるか
<論証例>
単なる危惧感があるだけで、予見可能性を認めるとすると、常に予見可能性が認められることになり不当である。そこで、特定の構成要件的結果の発生及び結果の発生に至る因果関係の基本的部分が予見可能でなければならない。ただし予見可能性は結果回避義務を基礎付けるものだから、結果回避義務を課すに足りる程度のもので足り、個別的具体的結果の予見可能性までは不要と解すべきである。 |
*但書以下は、過失を犯した者が個別的な結果を予見していなかった場合に限って論証。ここでは、予見の対象と予見の程度が問題になっています。
4 次に、結果回避可能性は認められるか
結果回避措置を取っていれば、結果を回避することができたことを認定。
5 では、結果回避義務違反は認められるか
<論証例>
ここで、他人の適切な行動に対する信頼が相当といえる場合には、信頼の原則の適用により、結果回避義務の内容は、他人の適切な行動を前提として行動することに軽減されると解すべきである。 (行為者に法令違反が認められる場合であっても、結果との間に関連性がないのであれば、信頼の原則の適用を受ける) |
*当てはめのポイントは、信頼することが相当と言える状況であったかです。
<当てはめ例>
本件を検討するに、患者の同一性の確認が看護師の役割であることが確立されていたX病院においては、 執刀医が、看護師によって患者の同一性が念入りに確認されていたことを信頼することは相当と言える。そのため、執刀医の結果回避義務としては、患者名の読み上げ及び目視といった簡単な確認をする程度の確認義務に軽減されていたと解すべきである。 そして、Xは執刀前に患者名を読み上げ、目視で患者の同一性を確認していたのだから、この義務を尽くしていたと言える。したがって、結果回避義務違反は認められない。よって、Xの上記行為について過失は認められない。 |
過失の構造論に言及したいのなら
<論証例>
違法性の実質は、社会的的相当性を逸脱した法益侵害にあることから、法益侵害的結果が発生したとしても、法律上要求される注意義務を果たしたのなら、違法性は阻却されるべきである。また、構成要件は違法類型であるから、かかる場合には、構成要件該当性も否定されるべきである。 そうすると、過失とは構成要件要素と考えるのが妥当である。具体的には、過失とは、予見可能性、結果回避可能性を前提とする結果回避義務違反をいうと理解すべきである。 |
結果回避可能性と補充生の関係
過失犯と緊急避難が問題になった場合、結果回避可能性と補充性の関係を言及するのがベターです。
<論証例>
過失犯の成立は、結果回避可能性を前提とするから、補充生はおよそ認められないのではないか。 義務の前提としての「回避可能性」は、類型状況下での事前判断で制約されているから、緊急状況という特殊事情を考慮した、「補充生」とは別の概念であり、判断が異なることは矛盾しない。 |
論述の順番
過失犯の勉強は、後回しになりがちで、受験生が苦手なテーマであると思います。そのため、論述の型さえ身につけていれば、最低限守りの答案を書くことが出来ると思います。
基本的には、
過失の定義
↓
結果予見可能性
↓
結果回避可能性
↓
結果回避義務違反
の順に論述していけばいいと考えています。
最後に
いかがでしたでしょうか?
この記事が皆様のお役に立てば幸いです。
今回の過失犯に限らず、本ブログではその他の重要論点・判例を解説してるので、そちらもご参照ください。