『徳島市公安条例事件の理解すべきポイントは?』
『徳島市公安条例事件の重要な事実関係は?』
『最高裁が示した明確性の原則とは?』
徳島市公安条例事件は、条例の法律適合性と刑罰法規明確性の要請に関する判断基準を示した最高裁判例として知られています。
公安条例に関する最高裁判例はいくつかありますが、特に重要な判例なのでしっかり押さえましょう。
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徳島市公安条例事件の概要
被告人Yは、昭和43年12月10日に徳島市内で集団示威行進に参加し、その際、自ら、だ行進をした上で、集団行進者にだ行進をさせるように刺激しました。
そのため、被告人Yは道路交通法と徳島市公安条例違反に問われて起訴されました。
道路交通法では、77条3項により、警察署長は許可に条件を付することができると定めており、条件に違反した場合は「3月以下の懲役又は3万円以下の罰金」を科するものと定められています。
問題の集団示威行進も、許可条件として「だ行進をするなど交通秩序を乱す恐れがある行為をしないこと」と付されており、被告人Yの行為はこれに違反するものでした。
一方、徳島市公安条例では、集団示威行進について、市公安委員会への届出を求めており、集団示威行進を行なう者が順守すべき事項として、「交通秩序を維持すること」と掲げ、これを遵守しない煽動者等に対して、「1年以下の懲役若しくは禁固又は5万円以下の罰金」を科していました。
つまり、徳島市公安条例は、道路交通法と重複しているうえに、罰則も重く、「交通秩序を維持すること」というあいまいな規定を置いていることが問題になったわけです。
道路交通法と徳島市公安条例の関係をどう考えるべきか?
道路交通法と徳島市公安条例の規定が重複していることについてどのように考えるべきか。つまり、条例の法律適合性が問題となりました。
法律と条例の関係
まず、憲法94条には、法律の範囲で条例を制定できる旨が定められています。
◆憲法
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
更に、地方自治法14条にも、法令に違反しない限りにおいて、地域における事務処理に関して条例を制定することができる。と定められています。
◆地方自治法
第十四条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
第二条
② 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。
つまり、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合は無効になるわけです。
上乗せ条例や横出し条例は有効なのか?
では、条例で法律よりも厳格な「上乗せ条例」や法律、法令が規定している以外の事項を規制する「横出し条例」を制定できるのかが問題となります。
この点、徳島市公安条例事件では、条例が国の法令に違反するかどうかの基準を示したことで注目されました。
まず、最高裁は、条例が国の法令に違反するかどうかは、「国の法令の対象事項と規定文言の対比だけでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し矛盾抵触があるかどうかで判断する。」としています。
その上で、具体的に次のように述べています。
1、国の法令に明文がない理由が、いかなる規制も設けない趣旨なら、条例を制定することは国の法令に違反する。
2、国の法令と条例とが併存する場合でも次のいずれかの場合は、国の法令と条例は矛盾抵触せず、条例も有効。
- 条例の規定が国の法令とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用により国の法令の規定の意図する目的と効果を阻害しない。
- 国の法令と条例が同一の目的で制定されており、それぞれの普通地方公共団体において、実情に応じた規制を定めることを容認する趣旨である。
徳島市公安条例事件への当てはめ
道路交通法と徳島市公安条例についてみると、道路交通秩序維持のための行為規制については、両者の規律が併存競合していると認定しました。
ただ、道路交通法は、普通地方公共団体における道路又は交通の状況に応じた規定を設けることを認めたものと解釈できると指摘しています。
その上で、
- 道路交通法と徳島市公安条例の内容に矛盾抵触がない。
- 徳島市公安条例における重複規制が特別の意義と効果を有し、かつ、合理性がある。
と認定し、道路交通法は、条例による規制を否定、排除する趣旨ではなく、条例の規制の及ばない範囲においてのみ適用される。
つまり、徳島市公安条例の規定は、道路交通法に違反しないとしました。
条例の明確性の問題
この事件のもう一つの争点は徳島市公安条例の「交通秩序を維持すること」という規定が明確性に欠けているのではないかという点です。
条文の明確性は、憲法21条の表現の自由と、憲法31条の法定手続きの保障の規定から要請されています。
表現の自由からの明確性の理論
表現の自由に対してあいまいで不明確な法律による規制を加えると、本来、合憲的に行える表現をも萎縮させてしまうことがあります。
そこで法文上不明確な法律は原則として無効になると解されています。これを明確性の理論と言います。
罪刑法定主義からの刑罰法規明確性の要請
罪刑法定主義は、刑罰の実体は法律で定めなければならないという原則です。
近代憲法の重要な原理とされているものの日本国憲法には、罪刑法定主義を明記した条文はありません。
ただ、憲法31条を根拠とする見解が通説となっています。
◆憲法
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
罪刑法定主義は、次の3つの内容からなります。
- 刑罰法規の明確性
- 罪刑の均衡
- 刑罰の謙抑主義
このうちの刑罰法規の明確性とは、
- 国民から見て法規の内容を明確にし、違法行為を公平に処罰するために「事前に公正な告知がなされている必要がある」
- 法規の執行者である行政の恣意的な裁量権を制限するものでなければならない。
このような観点から求められているものです。
例えば、表現活動を規制する刑罰法規であれば、規定が不明確であれば、①規制対象を告知する機能を果たさない、②恣意的に運用される危険、③表現活動を委縮させる危険がある、ということになる。
もっとも、規定の文言の表現力には限界がある。
そこで、「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえきに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的な場合に、当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによって、これを決定すべき」という判断基準を示した。
最高裁が示した明確性の判断基準
徳島市公安条例事件では、最高裁は、刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するかどうかの判断基準を示しました。
具体的には、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断」が可能であるかどうかが基準になるとしました。
徳島市公安条例事件への当てはめ
徳島市公安条例では、集団行進の際に守るべきこととして、「交通秩序を維持すること」と定めており、違反した場合は罰則を科するものとしていたわけですが、この意味について、最高裁は、
「道路における集団行進等が一般的に秩序正しく平穏に行われる場合にこれに随伴する交通秩序阻害の程度を超えた、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為を避止すべきことを命じているもの」
と解釈できるとしています。
そして、このように解釈することは、通常の判断能力を有する一般人でも可能なので、憲法31条に違反しないと判断しました。
集会における行動を制限することは憲法21条に抵触しないのか?
もう一つ争点を確認しましょう。
殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為であっても、集会における行動である以上、憲法21条の集会の自由として保障されており、これを禁止することは違憲なのではないかという問題です。
まず、憲法21条が保障する集会の自由とは何かから見ていきましょう。
憲法21条が保障する集会の自由とは
集会の自由とは、
- 集会を行うことについて、公権力による制限や干渉を受けない。
- 公共施設を管理する公権力に対して、集会のために公共施設の利用を要求できる。
このような意味があります。
デモ行進も「動く集会」として、集会の自由が保障されると解されています。
集会の自由に関しては「泉佐野市民会館事件判決」の解説記事も参考に!
集会の自由への規制
しかし、集会は多数の人が集合する場所を前提とする表現活動のため、他の利用者の権利、利益との調整、集会の競合による混乱の回避が課題となります。
そのため、集会の自由は一定の規制を受けるものとされており、公安条例による規制もその一つです。
特に、デモ行進に対しては、公安条例による届出や許可という事前規制が課されていますが、こうした事前規制は、憲法21条による集会の自由に違反しないと解するのが判例です。(東京都公安条例事件 最大判昭和35年7月20日 刑集 第14巻9号1243頁)
徳島市公安条例事件への当てはめ
今回問題となっている「殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為」について、最高裁は、「思想表現行為としての集団行進等に不可欠な要素ではなく、したがつて、これを禁止しても国民の憲法上の権利の正当な行使を制限することにはならない。」と述べています。
よって、こうした行為を公安条例により禁止しても、集会の自由を不当に制限することにならないというわけです。
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