今回は、①捜索場所の特定性と②場所の捜索令状で場所中の物を事案と論証例を元に解説したいと思います。
※受験生時代に作成したまとめノートの抜粋です。内容の正確性を保証するものではありませんので、利用は自己責任でお願いします
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①捜索場所の特定性
事案と設問
【事案】
司法警察職員が「捜索すべき場所、身体及び物」として「〇〇市北区〇〇町○番○号 スナック『A』 ならびに同所に在所する者の身体及びその所持品」という記載の捜索差押許可状を請求した。
【設問】
このような令状の発付は許されるか。
論証例
捜索すべき場所、身体及び物の特定性
(1)上記令状の記載は「捜索すべき場所、身体及び物」(憲法35条1項、刑訴法219条1項)として特定されていると言えるか。
(2)特定性の要請の趣旨は、令状裁判官が差押目的物の存在する蓋然性を判断する対象を特定することで、蓋然性判断を確実にならしめることにある。したがって、「捜索すべき場所、身体及び物」は蓋然性判断ができるように特定されなければならない。
(3)本件について検討するに、まず、捜索すべき場所は、「スナックA」と特定されていると言える。一方、「同所に在社する者の身体及びその所持品」という記載では、原則として、「捜索すべき身体及び物」として特定されていないと考えるべきである。なぜなら、人は移動が可能であるから、捜索時に誰がスナックAに在所しているかについて令状裁判官はわからないはずであり、それゆえ、差押目的物の存在する蓋然性を判断することもできないからである。もっとも本件では、スナックAに立ち入ることができるのは事件関係者だけであることが事前に判明していたという事情があった。このような事情のもとでは、令状裁判官は差押目的物が存在する蓋然性を判断することが可能である。
(4)従って、令状裁判官は上記令状を発付することができる。
②場所の捜索令状で場所中の物を捜索できるか
論証例
(1)捜索差押許可状に基づき捜索できる範囲は、許可状で明示された「捜索すべき場所」(憲法35条1項、刑事訴訟法219条1項)に限られる。では、T社内の従業員用ロッカーは「捜索すべき場所」にあたるか。
(2)令状裁判官は、管理権単位で、特定した場所ごとに「正当な理由」(憲法35条1項)の判断を行うところ、同一の管理支配が及ぶ場所的範囲について存在すると見込まれる物に関する権利利益を考慮して、当該場所を捜索する正当な理由を判断していることから、管理者および定常的使用者の権利利益が帰属している場所中に存する物についても効力が及んでいるといえ、「捜索すべき場所」に該当すると解すべきである。もっとも、令状審査の及んでいない、人の身体・着衣、管理者や定常的使用者以外の者の管理権が帰属している物は「捜索すべき場所」に当たらない。(ただし、場所に存在する物は、通常、その場所の管理者が管理しているのが通常であることから、実際は第三者が管理する物であっても、一見して第三者が管理している物であると伺わせる事情がないかぎり、捜査官は、場所の管理者が管理する物として、捜索をすることが可能であると考えるべきである)
(2)本件について検討するに、同ロッカーは、T社内に設置されており、T社事務所の定常的使用者である従業員が利用しているので、管理者であるT社および定常的使用者である従業員の権利利益が帰属しているT社事務所に存する物に該当する。一方で、確かに、従業員乙が同ロッカーの鍵を所持しており、捜索実行時においては施錠されていた。しかし、乙は従業員という地位に基づき同ロッカーを使用できているにすぎず、しかもロッカーのマスターキーが社長室で管理されていた。それゆえ、従業員の利用権は、管理権として保護されるものではないと解すべきである。したがって、同ロッカーは、「捜索すべき場所」にあたる。
刑事訴訟法では以下のような記事も書いています。
参考いかがでしょうか。