今回は、品川マンション事件判決について解説していきたいと思います。
※以下、私の理解を整理したものとなります。正確性を保証するものではありません。ご利用は、自己責任でお願いします。
判決
まずは、品川マンショ事件の判決文を読んでいきましょう。
「建築主事が当該確認申請について行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものと解するのが相当であるから、審査の結果、適合又は不適合の確認が得られ、法九三条所定の消防長等の同意も得られるなど処分要件を具備するに至つた場合には、建築主事としては速やかに確認処分を行う義務があるものといわなければならない。しかしながら、建築主事の右義務は、いかなる場合にも例外を許さない絶対的な義務であるとまでは解することができないというべきであつて、建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合のほか、必ずしも右の同意のあることが明確であるとはいえない場合であつても、諸般の事情から直ちに確認処分をしないで応答を留保することが法の趣旨目的に照らし社会通念上合理的と認められるときは、その間確認申請に対する応答を留保することをもつて、確認処分を違法に遅滞するものということはできないというべきである。」
「もつとも、右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない筋合のものであるといわなければならず、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である。
したがつて、いつたん行政指導に応じて建築主と付近住民との間に話合いによる紛争解決をめざして協議が始められた場合でも、右協議の進行状況及び四囲の客観的状況により、建築主において建築主事に対し、確認処分を留保されたままでの行政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときには、他に前記特段の事情が存在するものと認められない限り、当該行政指導を理由に建築主に対し確認処分の留保の措置を受忍せしめることの許されないことは前述のとおりであるから、それ以後の右行政指導を理由とする確認処分の留保は、違法となるものといわなければならない」
コメント
本判決は、建築主と付近住民との紛争につき建築主に行政指導が行われていることのみを理由として建築確認申請に対する処分を留保することが、国家賠償法1条1項に反するかどうかを判示しました。
あくまで私の理解ですが、本判決の判断枠組みは、3つのステップにに分けることができます。
すなわち、
①行政指導中であることを理由に許認可等の処分を留保しても、
(a)応答の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合、
(b)応答を留保することが法の趣旨目的に照らして社会通念上合理的と認められる場合には、
直ちに違法とならない。
②そして、申請者が申請に対する処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を真摯かつ明確に表明した場合には、(社会通念上合理的とは言えないため)その後の行政指導の継続は、原則として違法となる。
③ただし、申請者の不利益と行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較考量して、かかる意思表明が、社会通念上正義の観念に反するものと言えるような特段の事情があれば、例外的に違法とならない。
の3つのステップに分割することができます。この判断枠組みは超重要です。暗記必須です。
簡単に解説しますね。
私は、②③は、①(b)の「社会通念上合理的」の下位規範と考えています。そのため、上位規範は、①(a)と①(b)ということになります。
当てはめでは、まず、①(a)を認定することになります。ここでは「任意」に同意しているかが問題となりますが、本判決が、「関係地方公共団体により建築主に対し、付近住民と話合いを行つて円満に紛争を解決するようにとの内容の行政指導が行われ、建築主において任意に右行政指導に応じて付近住民と協議をしている場合においても、そのことから常に当然に建築主が建築主事に対し確認処分を留保することについてまで任意に同意をしているものとみるのは相当でない」と述べていることから、①(a)の「任意」とは、不承不承の任意は含まれず、積極的(純然たる)任意を指していると解するべきでしょう。
次に、①(b)です。ここでは、意思の「真摯」性と「明確」性それぞれを認定することが必要となります。
本判決は、真摯性について、審査請求が…一時の感情に出たものとか、住民との交渉との駆け引きによるものではないことから、真摯性を肯定しています。また、「明確」性についても、審査請求を理由に、肯定しています。
ポイントは、「真摯」性と「明確」性をそれぞれ別に認定することです。このそれぞれの認定に、配点が振られていると思います。
意思の真摯性と明確性が認められたら、最後に、「社会通念上正義の観念に反するものと言えるような特段の事情」の有無を認定します。
ここでは、申請者の不利益と行政指導の必要性を比較衡量して判断するようですね。事案の個別的な事情を使って、当てはめましょう。
以上です。行政法は他に以下の解説を行っています。
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