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昭和女子大事件(最判昭49.7.19)をどこよりも分かりやすく解説

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昭和女子大事件は、憲法の人権規定の私人間効力に関する判例です。

最高裁は、三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)で間接適用説の立場を示しましたが、私立大学が学生の政治的活動を制約する場面では、どのように解釈すべきかが注目されました。

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目次

憲法の人権規定の私人間効力について

憲法の人権規定は、国家と個人(私人)の関係を規律する目的で制定されており、原則として、私人間には適用されません。

ただ、大企業と個人のように、一方が国の公権力に匹敵する社会的権力を有する状況が生じていることから、私人間にも憲法の規定を適用する解釈がなされています。

学説としては、主に直接適用説と間接適用説がありますが、最高裁は、三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)において、一般論として、間接適用説の立場を示したと評価されています。

なお、この最高裁の考え方は一般論であって、企業と個人、労使関係、労働組合と組合員など、それぞれの私人間で結論は異なっています。

昭和女子大事件は、私立大学と学生の関係に憲法の人権規定が適用されるのかが問題となった事件です。

事件の概要

昭和女子大学の学生であるXらは、昼休みや放課後に「政治的暴力行為防止法」に反対する国会請願のための署名を集めていました。また、学外の政治的組織にも加わっていました。

昭和女子大学はXらのこうした行為が生活要録の規定に反するとして、「補導」の処分を行い自宅謹慎を命じました。

なお、生活要録には、「学生の署名運動について事前に学校当局に届け出るべきこと及び学生の学外団体加入について学校当局の許可を受けるべきこと」が定められており、学生の政治的活動の自由を制限していました。

これに対して、Xらは反発し、週刊誌やラジオ番組などで昭和女子大学側の対応を批判しました。

昭和女子大学は、Xらの一連の行為が「学校の秩序を乱し、その他学生の本分に反するものである」として、Xらを「退学処分」としました。

そこで、Xらは学生たる地位の確認の訴えを提起しました。

第一審は次の理由によりXらの請求を認容しました。

  • 私立大学は「公の性質」を有しており、憲法の保障する思想の自由を尊重すべきである。
  • 私立大学は学生の思想に対して寛容であることが法律上要求されている。
  • 退学処分は教育機関に相応しい方法と手続により本人に反省を促す過程を経るべきである。

これに対して、昭和女子大学が控訴しました。

控訴審は、次の理由により原判決を取り消しました。

  • 大学が学生の思想内容に干渉し、その改変を求めたと解されない。
  • 退学処分に際しては、補導の過程を経る法的義務はない。
  • 本件退学処分は社会観念上著しく不当であり、裁量権の範囲を超えるものとは解されない。

これに対して、Xらが上告しました。

最高裁の考え方

結論から言うと、最高裁は、Xらの上告を棄却しました。

どのように判断して、上告棄却の結論に至ったのか見ていきましょう。

憲法の私人間効力について

憲法が保障する人権規定が私人間に適用されるのかという点については、最高裁は、前年の三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)の判決を引用し、「自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であつて、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでない」として、間接適用説の立場を示しました

私立大学において学生の政治的活動を規制することの合憲性

本件では、生活要録により学生の政治的活動の自由を制限していました。

Xらは、生活要録の規定が、憲法の人権保障規定に違反するという趣旨の主張を述べていたわけですが、最高裁は間接適用説の立場に立ち、直接憲法を持ち出して、生活要録の規定が違憲であるかどうかを判断することはできないとしています。

ただ、生活要録の規定が不条理な規定と言えるのかについては検討しています。

最高裁はどのように考えたのか、順を追ってみていきましょう。

大学は学則等で学生を規律する包括的権能を有する

まず、大学は公共的な施設であるため、法律に格別の規定がなくても、学則等で学生を規律する包括的権能を有すると判断しています。

しかし、私立大学にも学生を規律する包括的権能が認められる点については疑問を抱く方もいるかもしれません。

その点については次のように述べています。

  • 私立大学は、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風教育方針を打ち出すことができ、これに基づく学則等も制定できる。
  • 学生はその伝統、校風、教育方針、学則等を理解して入学している
  • そのため、私立大学に入学した学生は、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられる。

よって、国公立はもちろん、私立でも大学は学則等で学生を規律する包括的権能を有するということです。

大学の包括的権能の限界について

大学に学生を規律する包括的権能が認められるにしても無制限ではありません。

その限度について最高裁は、「在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認される」としています。

学生の政治的活動の自由に制約について

本件で問題となっている学生の政治的活動の自由に制約を加えることは、大学の包括的権能の範囲内にあり、合理性を認めることができるとしています。

特に私立大学が、学生の勉学専念を特に重視しあるいは比較的保守的な校風を有することから、政治的活動をできるだけ制限したいとの方針を示している場合は、「学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもつて直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。」としています。

昭和女子大事件へのあてはめ

昭和女子大事件では、生活要録により学生の政治活動を制約していることが問題となったわけですが、結論として最高裁は、生活要録の規定が「不合理なものと断定することはできない」としています。

大学の学生に対する退学処分について

昭和女子大事件では、Xらは、退学処分となったわけですが、大学が学生に対して退学処分を行う際は、教育機関にふさわしい手続と方法により本人の反省を促す補導の過程を経由すべき法的義務があるにも関わらず、補導を行わずに退学処分にしていることから、徴戒権者の裁量権を逸脱し違法であるとの主張がなされています。

この点については、最高裁は、京都府立医大事件(最判昭和29年7月30日)の判例(行政法の判例)を引用したうえで、学生の懲戒処分については、原則として、学内の事情に通暁し直接教育の衝にあたるものの合理的な裁量に任せるべきとしています。

その上で、退学処分に先立って補導を行うべきなのかについては、「それぞれの学校の方針に基づく学校当局の具体的かつ専門的・自律的判断に委ねざるをえない」ものであり、補導の過程を経由する法的義務があると解することはできないとしています。

大学側が補導の過程を経由せずに、退学処分を選択したとしても、「社会通念上合理性を認めることができないようなものでないかぎり、同処分は、懲戒権者の裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできない」ということです。

本件の退学処分についても、社会通念上合理性を欠くものであるとはいいがたく、結局、「本件退学処分は、懲戒権者に認められた裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を是認すべきである」としています。

まとめ

最高裁は昭和女子大学事件でも、憲法の人権規定が私人間に適用されるかどうかについて、間接適用説を採用しました。

その上で、私立大学が学生の政治活動に広範な規律を及ぼしても、不合理な制限とは言えないと判断しました。

▼参考文献▼

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