今回は、別件逮捕勾留の論証例を紹介したいと思います。
目次
事案と設問
放火被疑事実を取り調べる目的で、不法残留罪で逮捕。逮捕勾留期間に放火について自白をしたため、起訴後に、放火被疑事実で逮捕勾留、のちに起訴。
自白の証拠能力を論じよ。
【論述例】
別件逮捕勾留の適法性
(1)不法残留罪を被疑事実とする逮捕は、別件逮捕勾留として違法とならないか。別件逮捕勾留の適法性をいかに解すべきか問題となる。
(2)まず、別件について逮捕勾留の要件を満たす限り、その逮捕勾留は適法だとする見解(典型的な別件基準説)がある。しかし、この見解は、捜査官の主観的目的を考慮しないものであり、その妥当性を欠く。そこで、専ら本件を取り調べることを目的とする場合には、違法と解するのが相当である。この場合には、別件について取調べの意図がなく、それゆえ別件につき逮捕勾留する必要性ないし理由が認められないからである。
(3)本件について検討するに、捜査官らは不法残留罪についても取り調べを行っていることから、専ら本件である放火被疑事実を取り調べる目的を有していたとは言えない。
(4)よって、別件につき逮捕勾留する必要性及び理由が認められることから、身柄拘束自体は適法である。
余罪取り調べの限界
(1)身柄拘束自体が適法であるとしても、捜査官らは、不法在留罪で退避勾留中の被疑者に対して放火被疑事実について取り調べを行っていることから、余罪取り調べの限界を超えるものとして違法とならないか。
(2)まず、199条1項但書を反対解釈し、「逮捕又は勾留されている場合」の被疑者は取り調べ受忍義務を負うと解する。そして、(逮捕勾留の効力は原則として逮捕状に記載されている犯罪事実について及ぶとする)事件単位の原則が、身体拘束についての原則であることに鑑み、身体拘束中の取り調べについても同原則の適用があると解すべきである。そうすると、被疑者が取り調べ受忍義務を負うのは、逮捕勾留の基礎となった事実に限定されると解するのが相当である。
したがって、余罪の取り調べは原則として認められない。ただし、逮捕勾留の基礎となった事実と余罪との間に社会的事実として一連の密接な関連がある場合には、余罪の取り調べは逮捕勾留の基礎となった事実の取調べにもなるから、例外として許容されると解すべきである。なお、任意の取り調べであれば当然適法である。
(3)割愛
自白の証拠能力
(1)違法な取調べにおいてされた自白の証拠能力を如何に解すべきか。違法に収集された証拠の証拠能力の有無が問題となる。
(2)司法の廉潔性の維持及び将来の違法捜査抑止の見地より、①証拠収集手続きに令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが将来における違法捜査抑止の見地からして相当でない時は、その証拠能力は否定されると解する。
(3)本問について検討するに、放火被疑事実の取り調べは、令状がなければ作出することのできない強制的身柄拘束状態を利用したものであることから、これは令状主義の精神を没却するような重大な違法があるといえ、証拠能力を許容することは将来の違法捜査抑止の見地からしても相当と言えない。したがって、自白の証拠能力は否定される。
【コメント】
別件逮捕勾留の適法性の判断枠組みについては、学説上見解が一致しておらず混沌としている論点だと思うので、一応自説以外も知っていることを匂わせる書き方をするのがベターかと思います。典型的な別件基準説を取るにしても、捜査官の主観的意図について令状裁判官は知る由もない等多説批判をするべきでしょう。
別件逮捕勾留の適法性の論証については、論理的に飛躍している部分があるので、ここから修正を加えて行く予定です。
判例百選16事件を題材としていますが、規範は予備校本等を参考に作成しています。個人的には、身柄拘束自体は適法とした上で、余罪取り調べの限界を超える点で違法と論じるのが書きやすいと考えています。なぜなら、別件逮捕勾留の適法性と余罪取り調べの限界は別個の問題であるから、両方の検討を要するところ、証拠能力の有無を検討する上では、必ずしも双方の検討は不可欠とは思えないからです。そこで答案戦略上は、身柄拘束自体は適法、取り調べは違法と論じるのが無駄なく論じている印象が伝わるので良いかと思います。もっとも、この点について、浦和地裁は、両方の論点を検討し、両方違法であると言及した上で、自白の証拠能力を否定しています。なので、別件逮捕勾留は違法であり、これをもって自白の証拠能力を否定するに足りる違法性が認められるも、なお一応余罪取り調べの限界についても検討するという、書き方もありだと言えます。
最後に、16事件は、京大の堀江慎司教授が4Pに渡って解説を書かれていますので、司法試験受験生は要チェックかもしれません。
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