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【難解判例】川崎民商事件のポイントを分かりやすく解説【判例解説】

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今回は、憲法と行政法の重要判例である川崎民商事件判決について解説をしてみようと思います。この解説は、2部構成であり、第一部では、憲法35条適合性について解説します。

 

 

 

1 川崎民商事件判決の事案の概要

 

川崎税務署が、川崎民主商工会Xの確定申告に疑いを抱き、所得税法63条に基づき、帳簿書類等の検査をしようとした。これに対し、Xは、事前通知がなければ調査には応じられないとして、拒否したため、検査拒否罪として起訴された。

 

2 被告人の主張

 

質問検査は、刑罰によって強制されているのに、裁判所の令状を必要としておらず、これは、強制的な押収・差押等には裁判所が発する令状が必要であるとする憲法35条に違反する

 

 

3 川崎民商事件判決の要旨

(憲法35条違反の点)

 所論のうち、憲法三五条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規定が裁判所の令状なくして強制的に検査することを認めているのは違憲である旨の主張である。たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、

 また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。

 さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。

 憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。

 

 

 

4 川崎民商事件判決に対するコメント

 

川崎民商事件判決は、被告人の主張は、認められないと判断しました。

 

(1)まず、主張を整理します。

 

被告人は、所得税法の規定が憲法35条に違反する旨主張しています。憲法35条の規定を確認してみましょう。

 

憲法35条1項

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない

同条2項

捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う

 

同条を分解すると、(ア)侵入捜索押収に関する裁判所による「正当な理由」の事前審査、(イ)捜索する場所及び押収する物の明示、(ウ)令状の提示、から構成されていることがわかります。

 

おそらくですが、被告人は、所得税法の規定が、(ア)(イ)(ウ)のいずれの要請も満たさないという主張していると考えられます。

(2)さて、主張を整理できたところで、本判決の判断を確認していきます。

本判決は、帳簿書類等の検査の性質等について言及していますが、法的意義があるのは、以下の部分です。

「当該手続が刑事責任追及をも目的とするものではないとの理由のみで、その手続きにおける一切の強制が当然に右規定(憲法35条1項のこと)による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」

つまり、刑事責任追及を目的としない手続きであっても、憲法35条の適用の可能性があると指摘した点です。

 

憲法35条が、本来、刑事責任追及の手続きにおける強制について、事前審査に服すべきことを定めた規定であることからすると、行政手続きには一切適用されないという解釈もありうるところですが、本判決は、憲法35条の適用範囲は、刑事責任追及の手続きに限定されないと解釈したと考えられます。

 

本判決は、結論として、所得税法の規定は、憲法35条に違反しないとしました。論文試験対策上、この結論を覚えた上で、最高裁が何を考慮して判断したのかを覚えておく必要があります。

(3)本判決は、以下の通り、大きく4つの点を考慮しています。

 ①「所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、」

 

②「右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない」

 

③「強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたい」

 

④「国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。」

 

これを一般化すると、①刑事責任追及の目的の有無、②一般的に、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用の有無、③強制の態様程度、④強制の公益目的と、それとの均衡、となります。

 

受験生としては、まずこの①〜④の考慮要素を覚えましょう。その上で、最高裁がどのような評価をしたのかも覚えましょう。

 

川崎民商事件判決は、

①刑事責任追及を目的としていない

②一般的に刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を有しない

③強制の度合いが低い

④所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益との均衡が失われていない

と評価して、結論として合憲と判断をしています。