『弁護士実務と民法入門』シリーズでは、現役弁護士が、実際の法律実務を想定しながら民法の基本をわかりやすく解説しています。
このシリーズは、通常難解とされる民法の概念を、実際の法律実務を通して学べるように構成されています。
民法は、私法上の権利・義務を定める一般方ですが、私法には、以下の6つの基本原理や原則が重要とされています。これの原理原則は、私法の一般法である民法を理解するうえで非常に重要となるものです。
一つずつ、簡単に解説をしていきます。
1 権利能力平等の原則
権利能力平等の原則は、すべての人が同じ権利を持てるというルールです。
だれもが年齢や職業、身分で差別されずに、平等に権利を行使したり、義務を果たしたりすることができます。この原則は、自分自身の自由を守るための大切なものです。
みんなが平等に扱われることで、個々の人は自分の力で自由に生きることができます。
2 私的自治の原則
市民生活や財産取引において、個々の人が自由に法律関係を築くことができる原則です。国家は無理に干渉すべきではありません。
もっと簡単に言いますと、私的自治の原則とは、自分が自由に決めたことによって権利を持ったり、義務を負ったりすることが大切であるというルールです。
つまり、個々の人は自分の意思で、市民としての生活に関わることを決めることができます。
私法の関係では、個人が自分の意思で法律の関係を作ることができ、国家はそれに干渉しないようにするべきなのです。
3 契約自由の原則
個々の人は、いつどこで誰とどのような契約を結ぶかについて、自由に決めることができる原則です。ただし、契約を結んだら契約内容を守る責任も発生します。
契約自由の原則には、4つの自由があります。
1つ目は「締結の自由(契約するかどうかの自由)」で、自分が契約するかしないかを自由に選ぶことができます。
2つ目は「相手方選択の自由(相手を選ぶ自由)」で、どんな相手と契約するかを自由に決めることができます。
3つ目は「内容の自由(契約の内容を決める自由)」で、契約の中身を自由に決められます。
4つ目は「方式の自由(契約のやり方を決める自由)」で、どのような方法で契約をするかを自由に選ぶことができます。
ただし、最近では社会のルールや経済の考え方が変わってきています。そのため、何でもかんでも自由というわけにはいきません。
契約自由の原則には制限があります。特に消費者や労働者など、契約の力が弱い人たちを守るための法律ができており、消費者や労働者と契約をする場合には、契約の自由は制限を受けます。
民法でも例えば、保証契約は書面性が要求される等契約の方式が制限されています。方式の自由が制限されている例と言えます。
契約自由の原則は、普段の仕事で直接使うわけではないけれど、ビジネスで契約のことを考える時、いつも念頭に置いておくべき大切な考え方です。
4 所有権絶対の原則
所有権は国の法よりも先に存在し、侵害されない不可侵な権利であるという原則です。ただし、公共の福祉に基づく制限もあります。
所有権絶対の原則は、物を自由に使ったり持ったりする権利のことです。この権利はとても大切で、国の法律よりも優先されます。
たとえば、もしも自分が所有している自転車を他の人が勝手に取ってしまったら、その自転車を返してもらったり、他の人が使わないようにしてもらったりできます。それが所有権絶対の原則に基づく権利です。
ただし、民法206条は「法令の制限内において」制限を受けることを規定しています。したがって、例えば、公共事業のために土地を収用されたりすることがあります。憲法が保障する財産権との関係でも勉強が必要となりますが、民法の勉強との関係では、特に「法令の制限内において」という留保は気にする必要はないと思います。
所有権がしっかりしていると、物の交換(=取引)も安心してできる。この保障によって取引がどんどん盛んになる。所有権を守ることが資本主義の基盤となっています。
5 過失責任の原則
他人に損害を与えた場合、加害者には故意や過失がある場合に限り損害賠償責任があるという原則です。
簡単にいうと、過失責任の原則は、自分のせいで他の人にケガや損害を与えた場合、その人には法的に責任を負わせるというルールです。ただし、その人に過失がない場合には、責任を負わなくてもいいという考え方です。
私的自治の原則では、個人の自由な行動を尊重することが大切です。そのため、自分の意志で行動した場合には責任を負うべきですが、個人の意思などではどうしようもない場合(無過失の場合)には責任を負わなくてもいいというのが過失責任の原則です。この意味で、過失責任の原則は、私的自治の原則から導かれると言われています。
過失責任の原則は、故意や過失がない場合には責任を負わなくてもいいという非常にシンプルな考え方です。
過失責任の原則は法律で修正されることがあります。民法の過失責任の原則の特例として大気汚染防止法と水質汚濁防止法で無過失責任が定められています。
これにより、事業者が大気汚染や水質汚濁などで健康被害を起こしたら、過失があるかどうか関係なく賠償しなければなりません。
大気汚染などの場合は、過失責任の原則の例外として、故意や過失の証明が不要です。
6 信義誠実の原則
権利の行使や義務の履行は信義に従い、誠実に行うべきであるという原則です。民法1条2項には「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と規定されます。
例えば、知り合いと待ち合わせをする約束をしました。しかし、知り合いが待ち合わせ場所を忘れて来なかったとします。普通の人なら、相手に待ち合わせ場所を聞いたり、ちゃんと対応することを期待すると思います。でも、相手方は、その対応をせずに約束を破っています。この相手の行為は、信義誠実に反するといえるでしょう。
これは真偽誠実の原則をイメージしやすいように取りあげた例ですが、実際に信義誠実の原則が問題となる場合はこんな単純にはいきません。この記事は、民法入門のため、非常に簡単に説明をしています。
また、信義誠実の原則は、その派生原理として色々あります。そして、これらの派生原理は民法の勉強を進めていくと必ず登場する原理です。いまのうちに、名前だけでも覚えておいてもよいかもしれません。
信義誠実の原則の派生原理
・禁反言の原則
・クリーンハンズの原則
・権利失効の原則
・事情変更の原則
信義則違反の主張は、訴訟でも結構なされます。その他の法的公正では通用しそうにないが、結論としては、請求が認められるべきではないはずというケースで「信義則違反」の主張がされるケースはそれなりにある印象です。
7 最後に
今回は、私法上の6つの原理、原則について説明をさせて頂きました。民法を勉強している人であれば、この6つの原則は、すらすらと説明をすることができるようになっている必要があるかと思います。入門編としては、今回の記事で説明した程度の内容を理解していただければ十分だと思います
予備試験の民法対策については以下の記事を参考にしてください。
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