出題趣旨を踏まえて、令和元年司法試験の私の再現答案を分析していきたいと思います。初回は、【憲法】です。十分にご承知の上かと思いますが、あくまでも一介の合格者の分析にすぎませんので、その点をお分かりいただければ幸いです。とはいえ、司法試験受験生のためになるように執筆させて頂きました。
他、以下のような再現答案を作成しております。この記事の最後にリンクを再度つけておりますので、どうぞそちらもご確認ください。
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出題形式は、意見文型の出題
令和元年司法試験憲法では、前年に引き続き三者間形式ではなく、意見文型の出題でした。他方、前年のような会話文はなく、問題文の量も減少していました。個人的には、三者間型の出題形式ではないことに安堵しましたし、事案の把握も容易で、設問の誘導もあったので、解答しやすかったです。あくまでも、出題形式に関してですが。
【設問】を丁寧に読むべき
令和元年司法試験【憲法】では、【設問】に解答の方針が明示されていました。
あなたは、A省から依頼を受けて、法律家として、この立法措置が合憲か違憲かという点について、意見を述べることになった
→「この立法措置が合憲か違憲かという点」について、法律家としての立場として意見文を作成することが求められていることが分かります。また、「合憲か違憲かという点」に限定されていることから、それ以上の検討、例えば、条項案を提示するなどは不要と考えられます。
A省からは、参考すべき判例があれば、それを踏まえて論じるように、そして、判例の立場に問題があると考える場合には、そのことについても論じるように求められている
→参考とすべき判例を踏まえた検討を求めていることがわかります。また、判例への批判も必要に応じて求めていることがわかります。
立法措置のどの部分が、いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にする必要があるし、自己の見解と異なる立場に対して反論する必要がある考える場合は、それについても論じる必要がある。
→憲法上、問題となる部分を特定することが求められています。また、自己の意見と異なる立場に対する反論も、必要に応じて、言及することも求めています。
なお、独立行政委員会制度の合憲性については論じなくて良い。また、本問の法案による規制は、国外に拠点を置くSNS事業者にも、日本国内の利用者に対してサービスを提供している限り適用され、そのために必要となる法整備は、別途適切になされるものとする
→論じる必要がない点、事案の設定について付加的な説明を加えています。
受験生に対するアドバイス
令和元年の司法試験【憲法】では、上記のように【設問】で解答の方針について、明確に示してくれています。このような、出題形式が2020年以降も維持されるかは分かりませんが、受験生としては、解答に当たって、まず【設問】を丁寧に読んて、出題形式と出題者が要求していることを把握すると良いと思います。
令和元年の司法試験【憲法】の出題内容
現代的な問題をクロースアップ
出題の趣旨によりますと、本年の問題は、虚偽の表現の規制の可否を問うものである。
とされています。虚偽表現の中でも、フェイクニュースに対する規制の可否が問われました。
フェイクニュースは、各国で様々な課題を生じ、対応が模索されている現代的な問題
→令和元年に限らず、憲法の問題は、現代的な問題、時事問題がネタにされることが多いです。受験生としては、社会的問題に関心を持ち、とりわけ憲法上の権利が問題とされるものについては、その問題意識程度は、少なくとも頭に入れておく必要がありそうです。
憲法上の権利が問題となりそうな現代的問題の具体例として以下のものが考えられます。思いつく限り挙げてみましたが、網羅的ではありません。
・サイトブロッキング(正直これが出題されると思っていました)
・地方自治体の政治的中立性(集会の後援申請を自治体が不承認に 「政治的中立」をどう考えるべきか(THE PAGE) – Yahoo!ニュース)
・旅券発給拒否(旅券発給拒否で不服審査請求へ=ジャーナリスト安田さん | nippon.com)
・同性婚LGBT(「同性婚認めないのは違憲」福岡の男性カップル国を提訴 [LGBT][いろいろかぞく]:朝日新聞デジタル)
・選挙年齢引き下げによる主権者教育(10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴) – 個人 – Yahoo!ニュース)
・選挙演説におけるヤジ排除(ヤジ排除は「違憲・違法」 東京弁護士会 道警などに意見書:北海道新聞 どうしん電子版)
今年の問題も、フェイクニュース規制の問題意識である対抗言論の法理を知っていれば書きやすかったでしょう。もちろん、現場で思いつくことは可能ですが、馴染のある問題と感じられれば心理的に有利になり、思考負荷を大幅に減少させることが出来るように思います。
憲法上の問題のある社会問題に直面した際には、少し立ち止まって問題意識を考えてみましょう。
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私も、使用していました。
立法措置①
検討対象となっている立法措置①は、第6条(「何人も、公共の利害に関する事実について、虚偽であることを知りながら、虚偽表現を流布してはならない」)と第25条(「第6条の規定に違反して虚偽表現を流布した者は、30万円以下の罰金に処する」)です。
出題趣旨を読む限り、ここでは少なくとも以下の事項に対する言及が求められているようです。
<規制対象が虚偽表現ある点>
・虚偽表現の保障の有無、保障の程度
虚偽の表現,とりわけ虚偽と知ってなされるものについては,そもそも表現の自由の保障 範囲に入らない,あるいは,保障の範囲に入っても,保障の程度が低いという議論もあり得 なくはない。その点について論じる際には,そのように考えることに問題はないか,また, そのような考え方は先例に基づいたものといえるかといった点も考察する必要があろう
・対抗言論の法理
虚偽ではあっても種々の観点から有益な表現も様々に考えられることや,真実は誤り と衝突することによってより明確に認識されるのだから虚偽の言明ですら公共的な議論に価 値のある貢献をするものだ,という考え方もあり得ることにも留意が必要である
<規制対象の表現が「公共の利害に関する事実」である点>
・明確性
具体的状況によっては虚偽か真実かの判定が難しい場合が相当あ るという意味において不明確ではないか,処罰の範囲が広すぎ過度に広汎ではないか,とい った点について検討することが求められる
<規制方法の妥当性>
・より制限的でない規制方法の検証(ex報道による検証が優先されるべきではないか)
対抗言論や報道による検証などが 優先されるべきではないか,他の規制方法が考えられ必要最小限度のものに留まっていると は言い難いのではないか
・真実性の判断が難しい
特定の人の社会的評価や業務とは無関係の規制であり,あり とあらゆる表現が,虚偽であるというだけで,規制の対象となるため,政治的に激しい争い のある事柄や,歴史的・学問的な事柄まで対象となり,真実性の判断が難しいものとなり得 ることに留意が必要である
・恣意的な訴追の可能性
立法措置1が認められるとなると,あらゆる領域について,何 が真実かを,刑事責任を問うことで問題にできるということになり,恣意的な訴追を通じて, 全て真実は政府が決めるということになりかねないという懸念もある
出題の趣旨上、明らかではないが、個人的には言及すべきだと思う点があります。本件では、虚偽表現ではなく、「流布」行為が規制の対象となっている点です。この点は、SNSの特殊性が絡むと思ったので、再現答案ではこの点を、審査基準を緩める方向で評価しました。
しかし、法的措置①は、SNS上の表現に限定するものではないので、SNS上の表現の特殊性は、法的措置②で着目するべき事項だったと思います。言及するとしても大展開せず、簡潔な指摘でよかったように思います。
立法措置②
検討対象となっている立法措置②は、以下の通りです。
第9条 SNS事業者は,選挙運動の期間中及び選挙の当日に,自らが提供するSNS上に,次の各号のいずれにも該当する表現(以下「特定虚偽表現」という。)があることを知ったときは,速やかに当該表現を削除しなければならない。
一 当該表現が虚偽表現であることが明白であること。
二 当該表現により,選挙の公正が著しく害されるおそれがあることが明白であること。2 フェイク・ニュース規制委員会は,特定虚偽表現があるにもかかわらず,SNS事業者によって 前項の措置が執られないときは,当該SNS事業者に対し,速やかに当該表現を削除するように命令することができる。
→SNS事業者の削除義務とフェイクニュース規制委員会の削除命令権を定めている
第13条 第9条第2項の規定による命令に基づき,SNS事業者が,特定虚偽表現を削除した場合において,これにより当該表現の発信者に生じた損害については,SNS事業者は賠償の責任を負 わない。SNS事業者が,特定虚偽表現を削除した場合,又は特定虚偽表現でない表現を特定虚偽 表現として削除したことについて故意又は重大な過失がなかった場合も同様とする。
→SNS事業者の損害賠償の免責
第15条 国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項の規定に基づいて,A大臣の 所轄の下に,フェイク・ニュース規制委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2 委員会は,5人の委員をもって組織する。
3 委員は,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命する。
4 委員の任命については,2人以上が同一の政党に属することになってはならない。
5 委員の任期は,3年とする。
6 内閣総理大臣は,委員が心身の故障のために職務の執行ができないと認める場合又は委員に職務 上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認める場合には,両議院の同意を得て,その 委員を罷免することができる。
→フェイクニュース規制委員会の設置や組織について定めている
第20条 第9条第2項の規定による命令については,行政手続法(平成5年法律第88号)第3章 の規定は適用しない。
→削除命令を行政手続法の適用除外としている。
法的措置②は、法的措置①よりも検討すべきことは多岐に渡ります。
<制約される人権の分析>
出題趣旨によると、まず、規制される人権の分析が求められている。つまり、SNS事業者の自由と、個々の発信者の表現の自由が制約されていることを適切に分析することを求めています。
削除義務を課されるという形で直接に制約の対象と なっているのは,SNS事業者の自由であるとともに,削除されるという形で制約されてい るのは個々の発信者の表現の自由であることを適切に分析することが必要である
<明確性の原則>
次に、「選挙の公正」の明確性が問題になります。
立法措置2については,選挙の公正ということの明確性が問題になるかもしれない。その 場合,合憲限定解釈の可能性も含めて検討することがあり得る
<規制態様の分析>
さらに、規制態様の分析も求めています。つまり、表現内容規制なのか表現内容中立規制なのかという点の分析です。
立法措置2を,内容中立規制とする見解があるかもしれない。しかし,内容規制と,時・場所・方法の規制のような内容中立規制が組み合わされたときに,直ちに内容中立規制と評価することは問題がないか, 検討が必要であろう
<選挙に関する表現という特殊性>
加えて、選挙に関する表現であるという「特殊性」に対する言及も求められています。
選挙に関する表現をどのように位置付けるべきかについては,国際的 に比較しても非常に厳しい我が国の選挙運動規制を合憲とする先例は多数あるが,その評価 を含めて論じることが可能であろうし,それらの選挙運動規制と本問を区別することも可能 であろう。
<検閲や事前抑制という観点>
検閲や事前抑制という観点からの検討も求められています。
立法措置2は,表現の削除を罰則をもって強制するという強力な規制であるので,検閲や 事前抑制の原則的禁止の法理との関係を問題にすることも可能である。ただ,その際には, 立法措置2による規制によって,発表が禁止されている訳ではなく,一旦発表されたものの削除が命じられていることに留意が必要である。 選挙の公正は,仮処分による差止め で保護される名誉権のような人格的権利ではなく,この点についての分析も必要であろう
また、本件で問題となる利益が、名誉権といった人格権ではなく、「選挙の公正」である点の評価も求めらています。
選挙の公正は,仮処分による差止め で保護される名誉権のような人格的権利ではなく,この点についての分析も必要であろう。
さらに、検索結果の表示の削除が問題となった事案を参考にすることも想定されているようです。
一旦表現されたものの削除が命じられるという点では,検索結果の表示の削除が問題とな った事案も参考になり得よう。比較衡量的な枠組みを提示しつつ,要件が満たされていることが「明らか」なことを要求する判例の立場から見た場合,立法措置2の要件が十分に限定 されたものになっているか否かを検討することになろう
<行政手続法の事前手続、行手法の適用除外>
削除命令権が付与されている期間が、司法機関ではなく、行政機関であることからの検討も求められています。
立法措置2が,司法手続ではなく行政手続によるものである こと,さらに,行政手続法の事前手続や理由提示の制度が適用除外とされていることをどの ように評価するかが問題となり得る。人格権侵害を理由に仮処分で差止めを認める場合,少 なくとも審尋が必要とされているが,要件が充足されていることが明白である場合には例外 が認められている。行政手続の適正性の要求を憲法上どのように位置付けるかを踏まえつつ, これらのこととの関係をどう理解するかを論じることが必要となろう
<規制の弊害>
表現を削除することによる弊害に着目した検討も求められています。手段審査の中で言及することが考えられます。
選挙は公共性が高く,迅速な対応が必要だとはいい得るが,誤って削除された場合には公 益が大きく害される。より制限的でない手段の検討が必要である。選挙に際してのSNSが 問題であるというのであれば,SNS事業者に自主的な削除手続を定めることを義務付け, これについての報告義務を課すという方法も考えられる。ただ,この場合には,上に述べた 私的な検閲のおそれは増大するかもしれない。また,とりわけSNS上のフェイク・ニュー ス記事の拡散が,出所の不透明な資金に支えられていることが問題であるというのであれば, 政治資金規制を及ぼして,資金の流れの透明化を義務付けることも考えられる。このような, 諸外国・地域で実施・検討されている他の方法が有益ではないか,といったことも論じるに 値する
私の再現答案の出題趣旨への対応
どの程度出題の趣旨に沿った回答ができていたのか簡単に確認してみました。
黄色が言及した点で、青色が言及できなった点です。一見して明らかのように、全然対応できていません。また、黄色マーカー部分も言及したことを示すのみで、出題趣旨を充足する検討が出来ているわけではありません。いかに司法試験が出題趣旨に沿った解答をすることが難しい試験であることがよく分かると思います。
*出題趣旨は、法務省のサイトで公開されています。
まだ、順位がわかりませんで、恐らく憲法の評価は厳しいものになるでしょう。特に、設問1で虚偽表現である点からの検討が抜けているのは、致命的なミスだと思います。
以下で、これまでのところを踏まえて、自分の再現答案にコメントをしたいと思います。
再現答案へのコメント
立法措置①
<規制対象が虚偽表現ある点>
この点の検討は完全に抜けています。問題意識には気づいていたはず(気づかないとおかしい)ですが、答案では表現することができていません。 試験現場での焦りもあったのかと思います。致命的なミスです。
私の答案では、以下のように表現の自由が一般的に有する優越的価値に言及しています。
表現の自由には、表現行為を通じて人格の形成発展を図ることができるという自己実現の価値、言論活動を通じて国政に関与するという自己統治の価値が認められる。そのため、表現の自由の保障は特に尊重されなければならない。(再現答案第二の2第一段落)
論証を貼り付けただけでかなり印象が悪かったと思います。本件における虚偽表現の流布が、自己実現の価値や自己統治の価値を有するのか検討するべきでした。この際に、フェイクニュースの問題意識である対抗言論の法理を言及するべきだったでしょう。
対抗言論の法理に関しては、『事例問題から考える憲法』 でも学習していたんですが、「虚偽表現の規制」に潜む危険性にまで想像することが出来ていなかったようです。
研究成果の発表が何らかの不都合をもたらす場合であっても、その弊害の除去は、原則として、言論市場に置いて、対抗言論を通じて行われるべきであって、規制を通じての弊害の帽子は、言論市場がそもそも機能しない場合や極めて不十分にしか機能しな場合に限定されなければならない(『事例から考える憲法』設問18解説4)
<規制対象の表現が「公共の利害に関する事実」である点>
・明確性
この点は、一応言及しています。しかし、虚偽か真実かの判例が難しい場合が相当あるという意味において不明確ではないか」(出題の趣旨)という点への言及は出来ていません。また、明確性の理論を正しく理解できているのか、適用できているのか、正直よくわかりません。再度、復習して、コメントできればと思います。
不明確な表現規制は、表現を萎縮させる。そこで、萎縮的効果を有する表現規制は、明確性の原則に反して文面上違憲と解すべきである。具体的には、通常の判断能力を有する一般人が、当該具体的場合において禁止される行為か否かを法文から判断できるか否かによって決すべきである。
本件について検討するに、確かに「公共の利害に関する事実」という表現は、幅のあるものであり、広汎な規制が及んでいると思われる。しかし、同法の目的は「社会的混乱が生じることを防止」することであるから、あらゆる公共の利害に関する事実を対象としているのではなく、その中でも社会的混乱を生じさせる恐れのあるものを規制していると解される。そして、このような限定解釈は、法の趣旨から導けるものであり、通常の判断能力を有する一般人の理解に合致するものと言える。よって、通常の判断能力を有する一般人が、当該具体的場合において禁止される行為な否かを法文から判断することができる。(再現答案第一第二、三段落)
<規制方法の妥当性>
・より制限的でない規制方法の検証(ex報道による検証が優先されるべきではないか)
私の再現答案では、立法措置①について、実質的関連性の基準(目的が重要で、目的と手段の間に実質的関連性が認められる場合に、合憲とする審査基準)を定立しています。私の理解では、実質的関連性の手段審査では、手段適合性、手段必要性、手段相当性の全てを検討する必要があると考えています。ですが、手段必要性と手段相当性の関係がよくわかっていません。手段必要性は、より制限的でない規制方法があるか、手段相当性は、規制の弊害を審査するものだと思うんですが、、より制限的でない規制方法があるのであれば、規制の弊害も当然認められると思うんで、手段相当性の審査の意義とは?ってなります。この辺を理解せずに、本番に挑んでしまったのは良くなかったです。
より制限的でない規制方法として、啓発活動を挙げていますが、出題の趣旨にあるように、「対抗言論や報道による検証」との比較を論じるべきであったかと思います。
虚偽表現の流布を禁止すれば、拡散を防げるので、社会的混乱の防止に寄与する。また、社会的混乱の防止を確実なものにするためには、啓発活動等のみでは不十分である。流布行為を禁止する行為以外に、他に緩やかな手段はないため、手段の必要性も認められる。他方、行政処分を介することなく、いきなり罰則を科すことは相当なものとは言えない。よって、罰則規定(法25条)は不相当な手段というべきである。(再現答案第二の3)
立法措置②
<制約される人権の分析>
この点は、分析出来ていたかと思います。SNS利用者の表現の自由と、SNS事業者のSNSを運営する自由及び適正手続きを受ける権利が問題になることは分析出来ていました。その上で、SNSを運営する自由は、営業の自由の問題であり、合憲となる可能性が高いので、検討の優先順位は低いと考えて、省きました。
<明確性の原則>
立法措置②に関して、明確性の観点からの検討はできていません。「文面審査」として、立法措置①と②を一括して検討するのが良かったのでしょうか。
<規制態様の分析>
特に理由なく、内容規制と評価しています。ネットという特定の「場所」におけるの表現規制だから、内容中立規制と解することも可能だったのでしょうか。一般的ではないように思いますが。
立法措置①と同様に、法9条の規制は、表現内容規制であり、かつ、選挙に関連する表現であることから自己統治の価値の高い表現を対象としている。(再現答案第四の2)
<選挙に関する表現という特殊性>
この点は、戸別訪問禁止規定合憲事件判決を依拠した検討をすることが出来ました。
選挙のルール理論や、選挙運動の自由が表現の自由の行使と捉えるべきかという議論については、アガルート の総合講義100や、『事例問題から考える憲法』(設問1 インターネット選挙運動の規制)で勉強していました。
この点、戸別訪問禁止規定合憲事件判決は、選挙運動に関わる表現規制であるにも関わらず、いわゆる猿払基準という緩やかな基準により審査している。これは、選挙運動に関する表現規制は、単なる表現規制ではなく、選挙制度の構築の一つの要素と捉えているものと解される。つまり、選挙運動は、あらゆる言論が自由に競い合う場ではなく、国会が定めた選挙のルール内で許容されるものである。同判決を前提にすれば、選挙に関する表現規制である法9条の規制について、単純な表現規制と捉えるべきではなく、選挙制度の構築の問題と捉えるのが相当である。これに対して、本件の規制は、有権者側の表現行為を規制するものであるという点で、同判決と事案が異なり射程は及ばないという反論が想定される。しかし、選挙人のみならず、有権者の表現行為によって、選挙の公正が害されることもあることから、同判例の射程は本件にも及ぶと解すべきである。(再現答案第四の2)
いま読み返すと、最後のしかし以下の「選挙の構成が害されることもあるから」という理由づけは、論理的ではありません。私の立論からすれば、例えば、選挙は、候補者と有権者による共同的行為→有権者の表現行為も選挙運動→本件も、戸別訪問事件と同様に選挙運動に関わる表現規制→射程が及ぶなどの理由が適切だったと思います。
<検閲や事前抑制という観点>
検閲該当性は、本問における重要な争点の一つと考えて、厚めの論述をしました。
本件について検討するに、確かに、フェイクニュース規制委員会は、行政機関の組織であるから、行政権が主体とも思われる。しかし、同委員会は、いわゆる独立行政委員会であり、行政から独立した存在としてその地位および権限が認められている組織である。実際にも、同委員会の構成員は、内閣総理大臣により任命されることにはなっているが、その罷免事由は合理的なものに限定されており、独立性が担保されている。また、「二人以上が同一の政党に属する」ことも禁止しており、政治的中立性も確保されている。よって、同委員会は、行政機関であるものの、その実態は、公平中立的であり、裁判所に準じる組織というべきである。以上より、まず、行政権が主体とは言えない。 さらに、法9条2項の制度は、発表後の規制であるから、発表前にその発表の禁止を目的とするものでもない。
他方、私の再現答案では、「検閲」該当性を検討しておきながら、制約の正当化の検討(再現答案第4)では、事前抑制的側面を指摘していません。一貫した論述とは言えず、印象が悪かったように思います。
<行政手続法の事前手続、行手法の適用除外>
適正手続の原則の問題になると気づきましたが、対策が進んでいないテーマで、規範をその場ででっち上げる形になりました。
憲法31条は刑事手続を念頭に置いた規定であるが、行政処分により権利利益が侵害されることもあるから、行政処分であるからという理由で適法が否定されるべきではない。そこで、行政行為による不利益が、行政行為の迅速性、公益という利益を上回る場合には、31条の適用が及ぶと解すべきである。そして、31条の適用がある場合には、適正な手続きが法定されていなければ、同条違反となると解すべきである。
本件について検討するに、削除命令を受けたSNS事業者は、表現の削除を行わなければならないが、削除による損害は、法13条により免除されていることから、SNS事業者に特段の不利益はない。他方、SNS上の表現は、その性質上、拡散が容易であることから、発見後迅速に対応することが求められる。また、拡散を防止することは、公共の利益となる。よって、行政行為による不利益が、その利益を上回るとは言えず、法31条の適用はないというべきである。(再現答案第五の1、2)
とは言え、SNSというプラットフォームの特殊性を絡めた検討が出来たことは評価されたのではないかと思っています。
<規制の弊害>
表現を削除することによる弊害に関する言及は出来ていません。ただし、私の場合、合理的関連性の基準を定立しているので、規制の弊害に対する検討がなくても、特に問題はなかった?ようにも思います。審査基準の適用方法を自信を持って解説できないことは、合格者として恥ずかしい限りです。再度、勉強してコメントさせて頂きます。
最後に
最後に、私の答案の良かった点、悪かった点をざっくり解説したいと思います。
良かった点
・一応、参考判例に依拠した検討が出来ている部分がある
・事案の特殊性に着目した検討が出来ている部分がある
・一応、審査基準の定立までの道筋を示している
・一応、目的審査もしてる(再現答案第二の3)
受験生に対するアドバイス
個人的には、司法試験憲法では、①参考判例に依拠した検討が出来ること、②事案の個別的事情に基づいた審査基準の定立が出来ること、③審査基準の適用が適切であること、の三点が特に大切なのではないかと思います。
平成30年令和元年の出題傾向からして、判例学習の必要性は増しています。判例を答案上で使うことを意識して、判例学習を進めていく必要があるように思います。
また、審査基準論はマストだと思います。審査基準論を理解することなく、本番に挑んでしまったことを後悔しています。厳格な審査基準、実質的関連性の基準、合理的関連性の基準の適用方法を、基本者等で習得しておくべきだと思います。
悪かった点
・保障の有無、制約の検討が浅い
・論理的一貫性に欠ける点が散見される
・誰でも気づく事案の特殊性である「虚偽表現規制」に関する検討がゼロ
・手段必要性と手段相当性の棲み分けが出来ていない
受験生に対するアドバイス
憲法の答案は、基本的に保障の範囲有無→制約の有無→制約の正当化のステップを経ます。多くの受験生は、制約の正当化をメインに論じることになるかと思いますが、今年の問題のように、「保障の範囲有無」が問題になることも少なくありません。私のように、思考停止することなく(保障の範囲有無、制約をさらっと認定して、制約の正当化を厚く論じることがテンプレになってしまっていた)、事案を分析して必要に応じてメリハリある論述を心がけてください。
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本当の最後に
長文かつ、拙い文章にお付き合い頂きましてありがとうございます。これからも法律学習者に対して有益な情報を提供できるように努めて参りますので、これからもよろしくお願い致します。
その他の再現答案は、以下のリンクからアクセスください。
記事が見つかりませんでした。
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